競馬の未来のために(後)
前回に引き続き、これまで当コラムで述べてきたさまざまなアイディアおよび提案の中から「どうしてもコレだけは」と考えているもの、残り3つをまとめさせていただこう。
●5.秋競馬の番組再編と牝馬偏重型競馬の確立
国際レースの空洞化、要は「ジャパンCに、昔ほど超大物が来てくれなくなった」という現状に終止符を打ちたい。いや実際にはデインドリームとかソレミアが走っているのでそれほど「寂しい」というわけではないのだけれど、以前に比べてワクワク感が薄れてきているのは確か。マイルCSやスプリンターズS、エリザベス女王杯も然りだ。
ま、それも時期とか距離の問題というより「日本の馬場で日本馬とやっても分が悪い」という意識が海外勢に根づいてしまったせいだと思うのだけれど、いっぽうで近年は、わが国・日本のスターホースですら秋のG1のいくつかをパスすることも増えている。凱旋門賞やブリーダーズC、あるいは豪州や香港などに遠征し、彼の地でしっかりと「日本馬、恐るべし」という爪痕を残してくれるのはいいことだと思うけれど、やはり国内G1のレベル維持にも努めたいところだ。
もっとも効果的な方法は、秋競馬の抜本的な見直しだろう。
いま、秋競馬は9月が中山・阪神、10月が東京・京都、11月も東京・京都、12月に中山・阪神という構成。G1(および主要G2)は、スプリンターズS−(毎日王冠)−秋華賞−菊花賞−天皇賞・秋−(アルゼンチン共和国杯)−エリザベス女王杯−マイルCS−ジャパンC−チャンピオンズC−阪神JF−朝日杯FS−有馬記念、という流れだが、天皇賞の2000mと3200mを春秋で入れ替えたり、天皇賞/ジャパンC/有馬記念の距離や順番や開催場を入れ替えたり、中山・阪神と東京・京都の開催順を入れ替えたり……、と大胆にイジることで、面白い番組とローテーションを作れそうに思えてくる。
もちろん、ただ無意味に「変えてみました」ではダメ。目指すべき方向性をまずは明確にし、かつ、欧米や香港と歩調を合わせながらの改革でなければならない。
前提となる「秋競馬の大テーマ」を、まずは設ければいいのではないか。たとえば、3歳勢と、2400mを走った古馬と、チャンピオンズCを走ったダート馬と、中距離まで守備範囲のマイラーと、さらには「2000mがベストなので、この時期は香港しか選択肢がない」という海外勢が一堂に会すようなレースを目指す。
となると、1年の締めくくり・有馬記念をオールウェザーの2000mで開催、なんていうアイディアが沸いて出てくる。
また、秋競馬に限らず通年で牝馬限定戦の番組を充実させ、秋のエリザベス女王杯をその頂点に位置づける。欧米勢やアジア勢、オセアニア、地方競馬からもヒヤリングをおこない、「どの時期に、どんな条件でおこなえばいいか」を考慮したうえで、「牝馬の世界チャンピオン決定戦」としての新生・エリザベス女王杯を作ってみるのもいい。
ある意味、G1の開催場・時期・距離・条件については“聖域”のようなイメージで捉えられているわけだが、より白熱した、よりレベルの高いレースを実現するため、ここに大胆なメスを入れたっていいはずだ。
●6.エクスタシー・エキスパンダーの開発と貸与
これは少々ジョークめいた提案なのだが、意外と効果もあるんじゃないかと考えている試みである。
人間、興奮・感動すると、「よしっ」などと声をあげると同時に「きゅっ」と身体に力が入るものだ。具体的には、拳を握り締め、肩から腕にかけての筋肉が収縮し、それがガッツポーズの一部を構成することになる。
これを逆から考える。筋肉が収縮するってことはそこに微弱な電気が流れているはずで、そのあたりの構造や仕組みを詳しく解析すれば「肩から腕に微弱な電気を流し、圧迫すること」で、こんどは脳へと興奮・感動をフィードバックさせることができるんじゃないだろうか。ある種の人工的な快感製造システムである。
イメージとしては『巨人の星』に登場する大リーグボール養成ギプス。あれに電流コントロール回路&圧迫メカニズムを搭載した「エクスタシー・エキスパンダー」を開発し、装着した状態で競馬を観戦。的中時(または勝った馬が猛然と追い込んで来たり逃げ粘ったりしているとき)に動作するよう設定しておけば、使用者に「競馬ってこんなに興奮・感動できるんだっ!」と思ってもらえることだろう。
なんか脳内にヤバい物質が分泌されそうな気もするけれど。
●7.「考えることが楽しい」という趣味教育の充実
これは先だって、さんざん述べたこと。とにかく昨今では、人は「考えるのが面倒」という価値観に支配されすぎていて、よりお手軽に感動やコーフンを求めたり、与えられた(しかもたいていは間違っていたり発信者に都合のいいようにねじ曲げられたりていたりする)情報だけで物事に接しようとする。
何事につけ、とにかく徹底した情報収集と分析、そして予想を経たうえでアプローチしたほうが、絶対に楽しいに決まっている。その事実、というより真理を、これはもう国を挙げての取組みとして、広く人々に伝え、浸透させるべきだ。
スポーツ、たとえばオリンピックやサッカーW杯や各種世界選手権の観戦なら、日本代表の家族構成とか苦労話なんてものだけを手にして観るのではなく、技術、ライバルの得意技、参加選手・チームの実力関係、世界的な勢力図、勝敗のカギをにぎるファクター……といったモロモロを把握してテレビの前に座るべし。その価値観を若い世代から植えつける。そんな教育プログラムを求めたい。
あるいはホビー・余暇。「いつでもどこでも手軽に」というモバイル系のゲームで時間を潰すだけではなく、ファッション誌をそのまま真似るだけで「ファッションに興味がある」などと胸を張るのではなく、囲碁・将棋、釣りやキャンプなどのアウトドア、オーディオ、無線、プログラミング、麻雀などのテーブルゲーム、パズル、そしてもちろん競馬をはじめとする公営ギャンブル……、つまりは「頭を使う趣味」へのチャレンジを楽しいと感じる人を育てたい。
頭を使い、知識を蓄え、上手くなろうと工夫をし、費やした時間と労力の分だけ実際に上手くなる、そんな趣味および「趣味に取り組む姿勢」を国として全面的にサポートするような政策を求めたい。いわば、レジャー&ホビー多様化プランの推進だ。
その先に、「考えることが楽しい」という価値観が根づいた未来に、競馬の未来も輝くのではないかと思うのである。
念のため、前回のべた4つについても再掲しておこう。
●1.宝塚記念のローカル持ち回り制とJRA版ブリーダーズCの実施
●2.WIN5の販売チャンネル強化と税金問題の解決
●3.海外競馬の馬券発売
●4.オールウェザー馬場の実現
これら7つのアイディアがまかり間違って実現したとき、競馬はさらに楽しいものになるはず。「競馬にかける時間」は本当に楽しいものだけれど、その楽しさがよりいっそうグレードアップするはず。そう信じる次第である。
では、長い間ありがとうございました。みなさまそれぞれの「楽しい競馬」を、それぞれの方法や思索とともに、末永く楽しまれることをお祈り申し上げます。(完)