市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第684回 2014.3.24

競馬の未来のために(前)


 このコラムがスタートしたのは1999年。なんと15年もの長きに渡り、毎週せっせこせっせこ書き連ねてきたことになる。その間、年末年始や月曜祝日の“定休載日”以外でお休みしたのは、確か1回だけ(東日本大震災で本棚が崩れ、パソコンが埋まったとき)だったと思う。われながら、よく続いたものだ。
 まぁ大半は暴論極論、書き連ねるというより書き殴ってきたのだけれど、「インターネット上の競馬コラム」としては異例なほどの長寿連載であることには違いなく、その点は誇っていいのかも知れない。

 連載開始当初は「競馬とパソコンの関係」が主要テーマだった。当時はインターネット普及率もまだ10%程度だったはずで、PATも抽せんを潜り抜けなければならず、いまほど「パソコンを利用した競馬予想」も一般的ではなかった。
 が、その後少しずつ、というより年々劇的に状況は変化し、いまや予想も情報収集も血統分析も投票もレース観戦も、すべては“パソコンありき”が当たり前の状況だ。

 このコラムでもたびたび紹介した『五輪完全予想』に関しても、シドニー当時は各国の代表選手把握や記録確認にかなり手間どった記憶があるが、いまではどんなマイナー競技であっても、各統括団体が詳細なデータベースをインターネット上に用意してくれていて、ずいぶんと楽になった。
 思えば遠くへ来たもんだ、である。

 そうした状況の変化にしたがって、コラムの主要テーマも「いかにして競馬人気を復興させ、馬券の売上げを伸ばすか」や「ちょっとナナメから見た競馬の楽しみかた」、「競馬と他のスポーツとの関係」などへと変化していった。
 そこで提案したものの中には、暴論極論であるにもかかわらず、いくつか実現したものもある。新馬券とか、馬券の10円単位での発売とか。もちろん、それらサービスの導入に当コラムが大きな役割を果たした、などとはこれっぽっちも思っていない。むしろ、こちらの提案や思索を超えたところで新しい何かが始まって(または終わって)、驚いたり感心したり嘆息することも多かった。
 そのいっぽうで「競馬人気を盛り上げたり、ファンが享受できる豊かな競馬環境の実現のために、まだまだやれることはあるし、その多くは『やろうと思えばできること』なのに、依然として手つかずのエリアがあるじゃないか」とも感じている……。

 で、なんでこういう“振り返り”と“まとめ”を進めているかというと、当コラム、とうとう終焉のときを迎えることになる。残すところ今週と来週の計2回、それで閉幕だ。
 毎週「何を書こうか」と悩まなくてすむようになるわけで、そのことには安堵を覚えるのだが、逆に、あれこれ好き勝手に書ける場を失うことには寂しさもある。
 ともかくもみなさまには「長い間お付き合いいただき、ありがとうございます」という感謝のみである。

 そんなわけで今回と次回は、これまで開陳してきたさまざまなアイディアや提案の中から「どうしてもコレだけは」と考えているものを7つ、あらためてまとめておきたい。

●1.宝塚記念のローカル持ち回り制とJRA版ブリーダーズCの実施

 これはもう何度もさんざん言い続けてきたので、もはや悲願宿願ライフワーク的な感じになってきている(それほど大層なものではないか)。
 宝塚記念を芝2000mとし、札幌・函館・福島・新潟・中京・小倉で持ち回りの順次開催とする、というのが主旨。時期はほぼ現行のまま、開催を毎年ちょちょっとイジれば不可能ではない。ついでに宝塚記念当該競馬場では前日と同日に、芝の短距離重賞(函館スプリントS)とダート重賞(古馬短距離戦の移設または新設かユニコーンS)、牝馬限定重賞(マーメイドSか短距離〜マイル)を実施し、可能な競馬場なら障害重賞も組んでしまう。プチ・ブリーダーズCの出来上がりだ。

 問題があるとすれば、普段より多くの観客が訪れることによるローカル競馬場周辺の混雑混乱への対処と、さまざまな事態に備えての地元との折衝・協力か。これはもう中央4場で培ったノウハウの活用と、「それだけ近隣にもお金を落としていってくれるから」ということで話を進めるしかない。
 有力馬がわざわざローカルまで出向くか、という点も引っ掛かるかも知れない。使った後で放牧という手もある北海道と、関東・関西の中間にある中京はいいとして、福島・新潟・小倉への出走に躊躇するG1級がいてもおかしくはない。ましてや近年は凱旋門賞遠征の前哨戦として宝塚記念を考える陣営も多く、そうした一流馬が福島へ、というのには無理も違和感もある。

 ただ、より多くの人に、ナマのG1に触れてもらう機会は絶対に増やすべきだ。
 私自身、田舎の出身。いや、大阪の衛星都市なのでド田舎というほどでもないのだが、東京や政令指定都市の中心部に比べると、明らかに刺激も情報も少ない土地だった。恐らく日本中のほとんどの町が同様、またはそれよりも閉鎖的な環境にあることだろう。娯楽といえば、クルマかパチンコか釣りか着飾るか、みたいな。
 これだけ情報化が発達した現代であっても、いや、情報化が進んだからこそ、「話には聞いたことがあるけれど、実際に見たり触れたりしたことはない」ものを夢想して悶々としている人は多いはず。未経験の領域に足を踏み入れたり、それまで自分の生活にはまったく入ってこなかった“何か”に突然触れることで、まったく違った景色が見えるようになる、というケースは多いはずなのだ。
 パンクロック聴いている人なんて、東京に来て初めて会ったもの。

 そんな“刺激の少ない”地元に、あの馬が来る。ビッグレースを直接見られる。これはもうお祭りである。ある程度は地元ローカル競馬場に通っている人であっても、なかなか中央4場へ遠征する機会はないはずで、そんな人が、いつもよりもニギヤカな競馬場、大歓声の中でトップクラスのレースを楽しめる。
 こうした経験は、競馬ファンとして何物にも代えがたいことだ。TVで観た、雑誌で読んだ、記録で知っている、といったレベルとはまったく異なる浸透度で、競馬というものがファンの中に入っていくことだろう。
 その経験、体の深いところまで入ってきた競馬が、競馬への愛着をさらに深めたり、ファン予備軍を立派なファンへと脱皮させたりするはずなのだ。

 先ほど「地元との折衝・協力も不可欠」と書いたが、これについては実はあまり心配していない。日韓W杯の際、開催会場の近く(たいていは田舎だ)の町は本当に生き生きとしていた。「このお祭りを成功させよう」と、まずは地元の人たちが率先して楽しんでいた。そういう雰囲気の生成を宝塚記念が担ってくれるのではないか、と思うのである。

●2.WIN5の販売チャンネル強化と税金問題の解決

 導入当初に比べて、やや売上げが低い位置で落ち着いている感のあるWIN5。当たらないという事実に気づいた人たちから敬遠され始めたのか、既存ファンだけで「毎週10億円以上」をキープするのは、もはや難しいのかも知れない。PATかJRAダイレクトでしか買えない、という点が、WIN5の広がりを妨げているのも事実だろう。

 幸い払戻金の上限が6億円にまで引き上げられたこともあり、一攫千金チャンスとしての魅力は宝くじやBIGと遜色のないところにまで来た。あとは、その魅力を“売り”にすることで、いかにして競馬に詳しくない層にも買ってもらうかが鍵。
 最低でも競馬場、できればコンビニや宝くじ売り場などでも買えるようにしたいところだ。金額をあらかじめ指定しての完全ランダム発売に限る、というスタイルで「競馬はよくわからない」層にも買いやすくすることが必須。それで現状プラス10億円くらいの売上げ増を実現できれば、人気サイドで決まった際の払戻しが相対的に高くなり、既存の競馬ファンにもメリットは大きいだろう。

 解決しなくてはならないのが、PATではなくナマの馬券で購入した人に対し、億単位の配当をどうやって払い戻すかという点。これについては、銀行の協力を仰ぐのか、ナマ馬券もクレジットカード決済にするのかなど、さまざまな角度から考えなくてはなるまい。
 また、例の税金問題も絡んで「当たっても申告が必要だし……」という面倒臭さを購入希望者・購入予備軍に与えているのもネック。ここは政権への働きかけで、なんとか「馬券の払戻しも課税対象外」へと持って行ってもらいたい。

 これらの難題をクリアして「競馬はよくわからないけれど」な人たちに恒常的に買ってもらえるような環境作りが、それらの人にも、既存のファンにも、主催者にも幸せをもたらしてくれるはずである。

●3.海外競馬の馬券発売

 これだけ一流馬の海外遠征が常態化しているのだから、せめて、凱旋門賞、香港、ドバイ、アメリカのG1レースなどの馬券は日本国内でぜひ売ってもらいたい。レースを自前で開催する必要がないので経費は安く済むはずだし(出走取消にともない払戻しが頻発しそうだというデメリットはあるが)、売上げの何%かを現地の主催者に渡すことにすれば向こうだって歓迎してくれるはずだ(イスラム圏とは調整が必要だが)。
 また、恐らくこの新システムの中では日本馬が人気過剰になることだろう。ならば、海外の競馬ファンにも発売を開放すればいい。「日本のシステムで自国馬を買えばオッズはオイシイ」と考える人たちが流入することも期待できる。

●4.オールウェザー馬場の実現

 海外に向けて日本の競馬を売る、あるいは打って出る、ということを考えると、オールウェザー馬場の導入はひとつの必須事項だろう。アメリカではオールウェザー馬場離れが進みつつあるようだが、世界的に見れば一定のニーズや注目度はある。
 トレセンへの導入を通じて国内でも研究が進められているが、なるべく早急に関東・関西に1コースずつ、実際のレースコースへの導入も実現してもらいたい。(つづく)

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