市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第683回 2014.3.17

競走馬の格と価値&その他のモノの格と価値(後)


 競走馬は“格”が上がれば“値打ち”も上がる。ただし、その上がりかたの比率はキッチリと比例しない構造になっている。この、少々複雑にも思える構造は、世の中全体を見渡すと意外と珍しいものといえるのかも知れない。

 前回はランチ(昼食)を例にあげた。300円(最安値クラスの弁当)を一応の底辺と仮定すると、600円でハンバーガーのセット、1200円でファミレス、2500円でランチビュッフェ、5000円でフレンチと、クラスが上がるとキチンと倍倍で値打ちも上がっていく、といった比例的イメージである。

 ランチの金額を100倍すると、たとえばデジカメあたりが該当しそうだ。
 3万円あれば、売れ筋のコンパクト型からいろいろと選べる。1600万〜2000万画素で4〜30倍の光学ズームも付いているし、フルハイビジョンの動画も撮れる。最安値クラスとはいえ、なかなかの高性能だ。
 倍の6万円になれば、F1.8など明るいレンズの搭載機が増え、ISO感度やシャッタースピードが上がったりズームの倍率も大きくなったりする。一眼レフの最安値クラスもこのあたりが普及価格帯。つまり、確実にモノとしての格が1ランク上がる。
 12万円だと、コンパクト型ならさらに倍率は上がり、起動時間の短縮などソフト面もブラッシュアップ。一眼レフであれば、レンズの性能が上がったキットとか、あるいは上級モデルのボディだけ、という商品になってくる。
 25万円ともなれば、コンパクト型なら画素数アップ&ローバスフィルターなどの新機能も付き、レンズは高角から望遠まで明るく、テッペン級の製品。一眼レフだと、ダブルレンズキットとか、ニコンのD800あたりに手が届く。50万なら、もはやプロ仕様。

 もちろん上を見ればキリはないし、製品バリエーションの多さや時期ごとの価格の変動などを考慮すると、必ずしも上述の通りの「格・価格バランス」とは言い切れない。倍々で上がるというより幅広い価格帯に幅広い性能・機能の製品が散在しているといえるのだが、それでもおおむね「格が上がれば価格もスルっと比例的にスライドアップ」というイメージではある。

 さらに10倍すれば、クルマ。30万円では、かなり限られた車種・年代の中古しか買えないのが実情。60万円出せば、やはり中古ではあるが確実に選択肢は広がる。運がよければ軽自動車の新車を手に入れられる可能性も出てくるようだ。
 120万円でコンパクトカー、人気モデルの新車に手が届くことになる。250万円あればファミリーカーやハイブリッドが多数のラインナップから選べるようになり、500万円でクラウンとかフェアレディZとか、各社のラグジュアリorスポーツカーをお買い上げ可能。やはり比例である。
 オーディオは倍々比率ではなく、3倍していくのが妥当だろうか。スタートを同じく3万円とすれば、ここに携帯型プレーヤーやミニコンポといった「聴ければOK」級の製品があって、9〜10万円でバラコンのCDプレーヤー+プリメインアンプ+ブックシェルフ型スピーカーの入門クラス。以後、30万円台、100万円、300万円と予算を上げるごとにシステムのランクも上がっていく。まぁもちろん趣味の世界だし、デジカメやクルマと同様に製品バリエーションと価格帯は幅広いけれど、そう間違ってはいない目安だと思う。

 と、こんな具合に「格と値打ちのバランス」が等比でスライドアップしていく世界が多いのに対して、クラスごとの平均獲得額をもとに算出した競走馬の「格と値打ちのバランス」をあらためて述べると、こんな感じ。
 未勝利馬が1→脱出馬が10→500万下勝ち馬が30→1000万下勝ち馬が60
 →オープン級が120→G2級が240→G1級が360

 ずいぶんとバラバラだ。

 もちろん「確かに、1つでも勝てる馬は、1勝もできない馬に比べて『期待できる獲得賞金額』という点で10倍以上の価値がある」ものの、だからといって「1勝馬は未勝利馬の10倍強い」とか「G1馬は未勝利馬の360倍速い」だなどとはいえない。
 仮に未勝利馬の平均的なレーティングを100とした場合、500万下で戦っている馬が1000、G1勝ち馬が36000とするのは、さすがに妥当ではないだろう。
 ランチの場合、1200円あれば600円のラーメンを2人が各1杯ずつ食べられるわけだが、競走馬を“強さ”という観点で考えると、そうはいかない。

 ただ、獲得賞金で競走馬を格付けするというアイディアやそれを予想に生かす試み、はたまた「競走馬の格と値打ちのバランスは、必ずしも等比でスライドアップしていくわけではないよ」という視点は、忘れないほうがいいだろう。

 たとえば、各クラスで現在走っている馬の獲得賞金額・その推移を分析すれば「何歳の、何走した時点でどれくらい賞金を稼いだ馬であれば、次のクラスへ出世できる」といった類推や予想が可能になるかも知れない。
 また、そのクラスで何戦も走り続けている馬と、ついこないだ下のクラスを勝ち上がったばかりの馬の成績や賞金額を比べてみるのも面白い。

 たとえば芝・ダート500万下全体の勝率(昇級馬・降級馬を除く)は6.8%。うち前走と同コースを走る馬は勝率8.8%。うち1〜3番人気の高評価を得ていた馬は勝率24.7%。
 未勝利勝ちの次走500万下における勝率は7.1%。うち前走と同コースを走る馬は勝率10.3%。うち1〜3番人気の高評価を得ていた馬は27.6%。いずれの数字も「昇級初戦のほうが優秀」である。
 こうしたデータに、昇級2戦目、3戦目の成績や、下のクラスでの獲得賞金などをプラスすることで「昇級から何戦以内の成績と獲得賞金を見れば、そのクラスで戦える力があるかどうかを判断できる」とか「たとえ昇級初戦で着外に敗れても、下のクラスでの賞金獲得ペースがこれこれであれば、2戦目以降確実に着順を上げてくる」といった事実が浮かび上がってくるかも知れない。

 レーティングを算出する場合、たいていの理論では過去の傾向やタイム差がもとになっているのだと思う。「この重賞の歴代勝ち馬のレーティングはこれくらいで、それに比べると今年はレベルが高かったので1着馬はこれくらい。そこから1馬身差の馬はこれくらいで……」とか「この馬は前走1着時がこの数字。それと同等のパフォーマンスで今回2着と考えられるから、勝ち馬はそこからプラスいくつで……」といった具合だ。
 が、ここに獲得賞金という視点を加えると、まったく新しいレーティング理論を生み出すこともできるはず。
 勝ち馬とのタイム差はいつも少ない(既存のレーティングではそれなりに高い数値が出る)のに獲得賞金は少ない(着順は悪い)馬。逆に賞金の獲得ペースは水準以上(高い入着率)なのに、既存理論のレーティングは低い(着差が大きい)馬。そうした存在をあぶり出し、成績と人気の相関を調べてみるのも予想に役立ちそうだ。
 出走馬が賞金を獲得してきたペースや頻度から、そのレースのレベルを判断できる、ということもいえるのではないだろうか。中には「下のクラスでの獲得賞金の推移を見ると、どうもレベルの低いレースで勝ち上がってきたようだ」という馬もいるはずで、そうした馬を抽出することもできるだろう。

 あるいは、前回述べた各クラスの構成比も参考になるだろう。全競走馬のうち
  未勝利馬54%→脱出馬19%→500万下勝ち馬12%→1000万下勝ち馬6%
  →オープン級5%→G2級1%→G1級0.5%以下
 ということがわかっているのだから「いま500万下を走っている馬のうち、何頭くらいが勝ち上がれる力を持っているか」「1000万下を走っている馬のうち、オープンに出世できる馬の割合はどれくらいか」が判明するわけで、その数字をレーティングや予想に生かせる可能性はある。

 新馬・未勝利から500万下、100万下と3連勝した馬は、そりゃあ確かに強いのだろう。G1馬は、確かに競走馬としての値打ちは高いといえる。が、3連勝した時点でパンクしてしまったり、一発大逃げを決めてG1をたまたま勝った人気薄は、獲得賞金で見た場合に「それ以上の価値はない」馬だといえる。
 いっぽう、未勝利脱出に何戦も要し、500万下でも苦労し、1000万下に上がったものの勝ち切れない、という馬でも、各クラスでコツコツと賞金を稼いでいるなら、それなりの値打ちはある。たとえG1で勝てなくとも、コンスタントに入着して賞金を稼いでいるなら、それなりの値打ちはある。そしてこの値打ちは、競走馬の強さや成長ペースと何らかの関係があるかも知れない。またクラスとクラスの間にある力差の算出において参考にできる数値かも知れない。

 そうした意識をもとに「総獲得賞金額から考える各馬の値打ち」を考え、予想に生かしたり、レーティングなどと複合させて新たな“競走馬を捉える際の価値観”を作ったりすることは、十分に可能なのではないか、と思う次第である。

>>BACK >>HOME