市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第682回 2014.3.10

競走馬の格と価値&その他のモノの格と価値(前)


 いずれは馬主に。そう考える競馬ファンは多いだろうし、実際、「いまも一口なら持っている」っていう人は少なくないはずだ。が、馬主として収支プラスを実現するのって相当に難しい。
 たとえば現15歳馬(つまり抹消された馬たちで、今後稼ぐ見込みはない)についてザッと集計したら、1頭あたりの獲得賞金は約1800万円。そのうち馬主に入ってきたのは8割程度、約1400万円ってとこか。ただ、馬代金や月々の預託料など支出を合計すると、少なくとも数千万円になる。完全にマイナス。しかもこの数字「無事に中央でデビューした場合」であって、だいたい1世代の半分は地方組や未出走馬なんだから、もっとマイナスを見込んでおいたほうがいいともいえる。
 まぁ馬主なんて“道楽”以外の何物でもない、ってことがわかる。

 それでも生まれたばかりの仔馬に数千万、数億って値がつくのが、この世界だ。もちろん、1億円で売れた仔馬がホントに1億円の値打ちを持つかっていうと、そうじゃない。そんなの、誰にもわからない。「この馬なら、いくらくらい稼いでくれそうか」という期待が売買金額に置き換えられただけのことだ。

 じゃあどうやれば競走馬の価値を正確に算出できるかと考えると、やっぱり引退までに稼いだ賞金額ってことになるだろう。この15歳馬たちでいえば、バンブーユベントスとかワイルドファイアーが1億2000万円ほど稼いでいて、そのうち約1億円が馬主に入ってくる計算だから、まぁ「1億円の値打ちがあった」といえなくはない。
 現役生活数年間の預託料や必要経費をざっくり2000〜3000万円とすれば、その分も差引しなくちゃならないから、スターキングマンとかセフティーエンペラあたり、1憶5000万円レベルの獲得賞金でやっとこ「1億円の値打ちがあった」ということになるだろうか。

 シンボリクリスエスの獲得賞金約10億円やファインモーションの約5億円っていうレベルになると、種付け料とか将来の仔馬の売却益といった収入が出てくるので、値打ちはさらに上がると考えていいだろうが、そういうケースは極めて稀。上で述べた4頭からもわかる通り、重賞でそこそこ上位に来る馬なら正味1億円、というイメージである。

 で、この「総獲得賞金額から考える各馬の値打ち」を、予想に生かしたり、レーティングなどと複合させて新たな“競走馬を捉える際の価値観”を作ったりできないか、と、ちょっと考察してみる。
 ひとまず中央在籍だった13歳〜15歳の日本馬を対象にし、やや特殊な存在であるマル地・カク地は除外して、さらに牡馬だけに絞って(一般的に牝馬は力が劣り、獲得賞金額の平均を下げるし、早めに引退させることも考えられるので)、残った6312頭について集計してみる。
 ちなみにシンボリクリスエスやデュランダル、ゼンノロブロイにネオユニヴァース、ダイワメジャーやカンパニーらが属する世代である。

 G1勝ち馬は27頭。これらの1頭あたりの獲得賞金額は約4億5000万円だ。前述の通りシンボリクリスエス級の馬もいるし、G1ホースともなると種付け権などが絡んできて実質的な値打ちはグンと上がることになるけれど、まぁ「G1馬の値打ちは4億5000万円」と考えることにする(預託料などの経費は面倒なので、ひとまず考慮しない)。
 G1は勝てなかったけれどG2勝ち鞍ならある、という馬が39頭いる。これらが稼いだ額は平均約2億9000万円である。

 同様にG3勝ち馬が61頭いて、これが約1億8000万円。オープン勝ち馬は119頭で約1億2000万円、1600万下勝ち馬は115頭で約1億1000万円となっていて、ここまではほとんど差がないのが実情。「分ける意味あるのか?」とクラス編成に対する疑問も湧き上がってくる。G3〜1600万クラスの計295頭は「競走馬の格としてはほぼ同じ。値打ちは約1億5000万円」と考えて問題ないんじゃなかろうか。

 1000万下勝ち馬になるとグっと頭数が増えて388頭。獲得賞金も約6900万円と、G3〜1600万クラスから半減する。
 500万下勝ち馬が746頭で、約3400万円。新馬・未勝利勝ちが1177頭で約1150万円。そして中央未勝利のまま終わる馬が3425頭いて、これらが稼ぐのは約128万円だ。

 上述の通り、G3〜1600万クラスの計295頭を「オープン級」としてまとめると、1勝もできない最下級からG1級までの量的構成は以下の通りとなる。
  3425頭→1177頭→746頭→388頭→295頭→39頭→27頭
 競走馬全体から見た構成比は次のような感じだ。
  未勝利馬54%→脱出馬19%→500万下勝ち馬12%→1000万下勝ち馬6%
  →オープン級5%→G2級1%→G1級0.5%以下

 半分以上が中央で勝てずに終わる。残りの46%は勝ち上がるけれど、競走馬としてペイするためには数千万円稼がなくちゃならないわけだから、未勝利脱出〜500万下勝ちの1勝馬や2勝馬だと、まだまだ収支マイナスの馬でしかない。1000万下を勝てる馬なら平均して7000万円くらい稼いでくれるので、準オープン級以上の馬をコンスタントに持てるのなら、ただの道楽ではなく、ちゃんとした経済活動馬主としてやっていけるかも知れない。が、オープンに出世できる馬なんて、全体の10%以下。15〜16頭に1頭の割合でしか「プラスになる馬」は存在しないのだ。
 もちろんこれは「中央に入厩し、デビューした馬」の場合。馬代金はまちまちだし預託料も中央と地方とでは異なるけれど、地方馬も合わせた全競走馬を考えた場合の実質は、30頭以上に1頭くらいの割合でしか「プラスになる馬」はいない、といった感じだろう。

 まぁ30頭持って、そのうち1頭がシンボリクリスエスなら問題ないのだけれど、イメージとしては、やはりピラミッド構造。もう少し詳しくいうと、底の部分(未勝利)が厚くて、1勝馬でグンと減って、上へ行くとかなりの先細り。横にすればいわゆるロングテール状の構造だといえるだろう

 次に獲得賞金額も、よりザックリ数字を整理・調整したうえで並べてみよう。
  120万円→1200万円→3500万円→7000万円→1.5億円→3億円→4.5億円

 おわかりになるかと思うが、クラスが1つ上がると「上がった際に稼いだ額+次のクラスの1着賞金額」くらいは獲得賞金額合計も上がるようだ。
 たとえば500万下を勝てないままウロウロしている馬は、新馬・未勝利勝ちの際に稼いだ500万〜600万円に加えて、500万下で何度か入着してまた600万円くらい稼ぎ、合計1200万円の賞金を手にする、という計算。ここから1000万下に上がった場合は、その際の700万円が加わって、この時点で計1900万円。で、1000万下でたとえ勝てなくとも何度か入着はして、1着賞金である1000〜1400万円と同程度稼いで最終合計が3500万円、といったイメージである。

 各クラスの金額差は、こういう感じだ。
  未勝利馬→約1000万円→2300万円→3500万円→8000万円→1.5億円→1.5億円

 クラスが上がるとレースの賞金は増えるから、当然ながら「手にすることを期待できる額」の増えかたも上がる。未勝利〜1000万下あたりまでに比べてオープン級以上での上がりかたはズドン、である。

 ここで、未勝利馬の120万円を「1」とした場合、G1馬に上り詰めるまで賞金額が何倍ずつ上がっていくかを計算。
 1→10倍→さらに3倍→そして倍→そして倍→そして倍→最後は1.5倍

 こうして比率で見ると、最初に1〜2勝できるかどうかで馬主としての収支が何十倍も違ってくることがわかる。逆にいえば「1つでも勝てる馬は、1勝もできない馬の10倍以上は価値がある」といった感じだ。
 そして、競走馬の“格”が上がれば“値打ち”も当然のように上がるのだけれど、その上がりかたの比率はキッチリと比例しない構造になっていることもわかる。

 実はこの「競走馬における値打ちの比率と構造」は、世の中のさまざまなものの値打ちを見渡してみると、意外と珍しいのかも知れない。
 たとえば、いきなり照準を飛躍させるけれども、ランチ(昼食)。その値打ち(価格)は倍・倍で上がっていくイメージだ。
 未勝利馬を弁当屋における最安値クラスとか、あるいはパン2個と缶コーヒーあたり、ちょっと寂しいけれど腹は満たせる、というランチにたとえるなら、その値打ちは300円くらいになる。
 各種ハンバーガーのセット、街道沿いのラーメン、まあまあ安めの食堂で日替わり定食、このあたりは600円くらいが相場か。その倍の1200円あれば、ファミレスで季節の彩り御膳をいただけたり、ふつーのレストランでパスタセットを頼んだり、選択肢は大幅に広がりそうだ。さらに倍の2500円出せば、これはもうホテルのランチビュッフェに手が届く。そして5000円あれば、そこそこのフレンチやイタリアンでのランチも可能。

 競走馬と違って、クラスが上がるとキチンと倍倍で値打ちも上がっていくように思えるのだが、いかがだろうか。  (つづく)

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