市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第678回 2014.2.10

恒久的な競馬開催のために 2014年版(結)


 現在、JRAの馬券売上げは年間約2兆4000億円だが、もろもろを考えると3兆2500億円〜3兆5000億円規模にしたいところ。それこそが適正な競馬マーケット。
 そのためには現状比135%〜150%という高い売上げ目標を実現しなければならないわけだが、いきなりというのは、さすがに無理。新規ファンが固定ファンとして定着するまでの期間として考えられる3年〜5年、余裕を持って10年くらいのロングレンジで、この計画は推し進められるべきだろう。

 そこで、まずは競馬ファンを、ほとんど毎週馬券を買っているコア層、年に数度しか馬券を買わないライト層、新規参入者、離脱者といったゾーンに分けて方策を練っていきたい。

 コア層対策として前回、馬券購入金額のマイレージ制度をあげ、さらに「コア層の回収率を90%に押し上げるための各種サポート」の必要性について触れた。買えば得になる、負ける額を減らす、という方向性のサービスで、コア層が回転させる資金を増やすわけである。
 馬券上手・予想上手な人は「自分の必勝法を他人に教えたくない」と考えるのだろうし、競馬マスコミにとっては「データ主義の予想より、ドラマ要素や浪花節的な情報を推したほうが売りやすい」という面もあるのだろうが、ここはひとつ「競馬ファン全体が馬券上手になれば、それだけ競馬周辺環境も潤う」と価値観をシフトさせ、一丸となって「全コア層の回収率アップ」に取り組みたいものだ。

 ただ、誰かが勝てば誰かが負ける。コア層の回収率が上がれば相対的にライト層の回収率が下がる、という現象が危惧される。「たまに買うけれど儲からない」という形が常態化すれば、ファンの固定など望めない。
 また、恐らく「コア層の回収率を押し上げるための各種サポート」は、どちらかといえば本命党寄り、コツコツ地道に的中率・回収率ともに上げていくようなorキープするような馬券術がメインになる可能性が高く、穴党はノってこないのではないか、とも思う。ただでさえ資金が早々に尽きる可能性の高い穴党が“置いてけぼり”になると、離脱者の増加も加速しそうだ。
 こうした部分への対策=新規ファンとライト層を増やし、離脱者を減らす策も推進しなければならない。

 新規ファンの獲得についての大きな問題は、ライバルが多すぎることだろう。
 競馬ってオシャレ。競馬をやっている人って最先端。そんな風に捉えられている時代は確実にあった。だからこそブームも起こった。が、ブームは去るもの。重要なのは「そこでどれだけの数が残ってくれるか」であり、それ以上に「ブームに関わらず競馬の世界に入ってきてくれる新規ファンをどれだけ確保できるか」が大きい。
 たぶん競馬に限らず、たとえばボーリングだとか無線だとか囲碁だとか、かつてブームになったホビー、あるいは将棋や麻雀のような定番趣味の世界には、それなりに新規ファンが流入し、それなりのマーケット規模を維持していたはず。
 ところが先に述べた通り、インターネットやスマホなど、さほど手間もお金もかけずに楽しめることが増えたため、意外と手間ひまのかかる競馬その他の「かつてブームとなった、または定番として生きながらえてきたホビー」が敬遠されるようになった、という面は少なからずあると思う。

 そこでまずは「手間ひまのかかること」が「実は楽しい」という事実を広く国民に理解してもらうことが重要となる。
 これに関しては、正直、競馬界の中だけで考えていてもどうしようもない部分がある。単に「競馬ファンを増やす」という目的だけにとどまらず、その他のホビー世界でも同じ問題に直面しているわけだし、理系離れとか児童・学生の学力低下といったより大きな問題の解決とも直結する事案。何らかの方策を実現するためには義務教育レベルから手をつけなければならず、もう国策としてやっていかなければならないものであると思う。
 ちょっと話が広がり過ぎるので、これは次回以降に詳しく考察していきたいが、ともかくも、主に児童・学生に対し「あれこれ考えて、手間暇かけて上達していくホビーこそ面白い」という価値観を植えつける策が必要だ。

 また、この部分での問題点を明確にするため、「競馬のどこに魅力を感じるか」ではなく、競馬に興味を示さない人や馬券を買ったことのない人について「それはなぜか?」を調査し、それを競馬周辺で暮らす人に積極的に開示することが求められる。
 当方の推察通り「競馬新聞の読みかたや馬券の買いかたを覚えたり、実際に予想して買ったりするのが面倒だから」なのか、「近くに買える環境がない」のか、「競馬をはじめとするギャンブルに対して悪いイメージを持っている」からなのか……。
 馬券を買わない人の実態を把握してこそ、各方面で有効な手も打てるようになるはずだ。

 たとえば、「なぜ競馬に興味がないのか?」について「馬券に使うだけの金銭的余裕はない」という回答は一定数に達するはず。ならば、お金を賭けなくても楽しめる競馬のありかたを考察、構築していかなくてはならない。
 個人的には「趣味だからといって、お金をかけなければいけないってことはない」とも思う(いっぽうで「散在こそ趣味の醍醐味」という意見もまた納得できるのだが)。馬券を買えない層でも参加できるPOG、競馬の観戦スポーツ的要素の面白さの発信など、これまで以上に力を入れて“ギャンブルではない競馬”をウリにしていくことが必要かも知れない。

 続いて、ネガティヴ・キャンペーンというわけでもないが「実は宝くじやBIGなんか買うだけ損」とか「それより馬券のほうがお得で楽しい」といった事実の周知も進めるべきだ。控除率の差が意味するものをアナウンスし、3連単やWIN5の“儲けやすさ”についてさらなるアピールを繰り広げるのである。
 まぁ口でいうのは簡単、実際は困難だとはわかっている。仮に「宝くじを6000円分買う場合と、WIN5を6000円買う場合」の期待値を比較するだけでも、まさにネガティヴ・キャンペーンとなり、各所からの反発は免れまい。
 だから、これについても教育の現場に期待する部分は大きいのだけれど、主催者レベルや民間レベルでも秘かに着実に進めていかなければならない。
 「宝くじって、3000円買った段階で1500円の価値に下がるんだって」とtweet拡散するだけでも、ちょっとは効果があるんじゃないだろうか。

 ただ、仮に「馬券のほうが儲けやすい」と広くアナウンスしたとしても、やはり「でも競馬のことはまったくわからないし、いろいろ予想して買うのは面倒」と考える層への対策は必要となるわけだが、ならば積極的にランダム・ピックアップによる買いかたをプッシュすべし。
 もちろん、これは何度か提案していることだが、馬券の、少なくともWIN5の販売チャンネルを多様化し、広く行き渡らせることも重要だ。IPATだけでなく競馬場やWINSで買えるようにすることは絶対で(困難なことは知っているが)、理想をいえば宝くじやサッカーくじ並みに「街角で買える」という環境も実現したい。
 こうすることで、確実に新規参入者、ライト層、そのどちらにも属さない“宝くじ感覚で馬券を買う人”は増えるはずだ。

 同じく新規参入者やライト層を増やすため、これはもう何十回と提案していることだが、「宝塚記念のローカル持ち回り制」の実現が待たれる。距離を2000mにし、札幌・小倉・福島・新潟・中京・小倉でのローテーション開催とする。できれば同日および前日の同場に、短距離やダート、障害の重賞も組み込んで、“プチ・ブリーダーズC”的な雰囲気を演出するといい。
 これまでGIは中央4場+中京でしか原則おこなわれておらず、地方のファンがダイレクトに触れる機会は多くなかった。「僕らの街(地方・地域)にGIが来る」という状況を作れれば、より多くの人がナマの競馬と接することになり、それを契機としてファンになってくれることが期待できるはずなのだ。

 これまた何度も提案してきたが、競馬アイドルの育成も継続していきたい。いまはAKBや乃木坂が“それなり”に頑張ってくれているが、お仕事としてではなく、もっと本格的な、それこそコア層としての言動や価値観を持った馬ドルの、それもAKBや乃木坂クラスの影響力を持つアイコン誕生を望みたい。がんがれ、武藤彩未。
 アイドルの助けを得ずとも、競馬そのものの情報の、スポーツ番組や情報番組、一般紙・一般誌における露出度を増やす努力も必要だ。

 あとは離脱者を減少させる策だが、これまた「なぜ競馬から離れる(離れた)のですか?」の実態把握が先決だろう。資金が尽きたのか、競馬そのものの魅力が薄れたと感じたのか、それとも……。この調査結果によって有効な対策を考え、全競馬関係者で“引き止め”に取り組むべきだ。

 そう、ともかくも、主催者、生産地、トレセン内、競馬の周辺で仕事をする者、ファン、農林水産業従事者など、すべての競馬関係者が同じ方向を向き、ファンとライト層の獲得+固定化+コア層の回収率向上に取り組み、ファンの絶対数を増やし、売上げを伸ばす。それこそが「みんなで幸せになるための道」であることを自覚すべきなんである。

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