市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第677回 2014.2.3

恒久的な競馬開催のために 2014年版(後)


 まずは前回までのまとめも兼ねての序盤。
 現在、年間約2兆4000億円の売上げがある、JRAの馬券。が、これではちょっと数字として低すぎる。競馬とつながりのあるすべての人が幸せになれる、適正な競馬マーケットとはいえない。
 余暇市場は約64兆7000億円だそうだから、2兆4000億円の馬券が占める割合は3.7%ほどに過ぎない。馬券全盛期だった頃は8%を超えていたわけで、ずいぶんと「余暇のさまざまな楽しみかたにおける、競馬の地位」は下がったものだと思う。

 そう、馬券の売上げが下がったのは、何も「ここしばらく景気が悪かったから」ということだけが理由じゃない。インターネットやスマホが普及し、それらを利用したゲームや動画再生(鑑賞)、SNSといった楽しみも定着、家庭用ゲーム機も一家に数台が行きわたり、TVは多チャンネル化……と“身近なIT環境”が充実した。さほど手間もお金もかけずに楽しめることが増えた。そのおかげで、意外と手間ひまのかかる競馬は敬遠されるようになった、という面も大きいのだと思う。

 さすがに8%レベルは競馬バブル、もはやそこまで復興させるのは無理な数値だとしても、4%以上〜5%といった目標は、それほど現実離れしたものでもないだろう。
 現状の65兆円規模に合わせれば、その5%は3兆2500億円。今後アベノミクス効果とやらで余暇市場が70兆円規模まで回復・安定するとして、その5%が3兆5000億円。このあたりが、ひとまずの目標だ。
 まずは馬券売上げ3兆円オーバーへ向けての努力を続け、さらにその先、なんとか3兆2500億円〜3兆5000億円を実現したなら、そのレベルをキープ。物価上昇や余暇市場の動向によって売上高も変動するかも知れないが、ともかく「5%ライン」を最低限維持確保する、というのが、いま考えられる「目指す甲斐があり、そう無理でもないはずの目標」であり、「競馬とつながりのあるすべての人が幸せになれる、適正な競馬マーケットの規模である可能性の高い水準」ではないかと思う。

 現状の2兆4000億円マーケットから3兆2500億円〜3兆5000億円規模にまで押し上げるとなると、現在比135%〜150%増といったところ。いきなりこれを実現しようとしても、いまはせいぜい「前年比100.4%」時代なんだから、かなり無理がある。前述の通り「ブームによって入ってきたファンが定着し、ボカスカと馬券を買ってくれるようになるまでの期間として、3年〜5年を要する」という事実もあるわけで、ならば売上げアップも5年から、余裕を持って10年くらいのロングレンジで考えていいだろう。

 で、じゃあそのために何ができるか、何をすべきか。
 ここでは競馬ファンを、ほとんど毎週馬券を買っているコア層、年に数度しか馬券を買わないライト層に分け、さらには新規参入者と離脱者についても考えてみる。

 まずは、既存のコア層に「いまの150%くらい馬券を買ってください」とお願いするための策。これは結構ハードルが高そうに思える。
 簡単に考えつくのは、これはすでに当コラムで提案したアイディアだが、購入金額に応じたマイレージ制度の導入だ。
 現在でもIPATを通じて間接的に「これだけ買えば、こんな特典がある」といったキャンペーンなどが実施されているが、より直截的に「年間の購入額を現状の150%にすれば、こんな特典が」といった方向性でサービスを練ってもいいのではないだろうか。

 ただ、仮に週2万円ずつ、年間100万円を馬券に費やしている人に、週3万円ずつ、年間150万円を買わせるのはどう考えても厳しい。コア層の平均的な回収率が80%として、それは年間20万円負けていることを意味するわけで、そんな人がいまの150%増で馬券を買ったらマイナスも150%増。つまりは「年間30万円のマイナス」を強いることになる。かなりハードな目標だろう。

 そこで、こういう人たちの回収率を90%に押し上げることができれば、どうだろう。年間150万円買ったとしても、マイナスは10%分の15万円。現状の「マイナス20万円」より負けは少なくなる計算だ。回収率が上がるということは、それだけ「儲かった日」が増えたり、「的中したときの儲け」が増える、ということでもある。
 コア層の回収率を90%に引き上げられたなら「儲かる日が増えますよ。いまより多くの馬券を買っても負けは少なくなりますよ」とアピールすることができる。というより、回収率が上がれば馬券資金の回転も順調になり、自然と売上げも伸びるだろう。

 となれば、話は早い(?)。競馬ファンの馬券力・予想力を向上させる、そんなファンサービス/ファンサポートに取り組めばいいのだ。
 まぁさすがに主催者JRAが「より当たる買いかた」なんて正面切ってレクチャーするわけには行かないだろうとは思う。
 「出る権利はあるけれど、とても勝てない馬だってレースに出ている」という事実とか「そんな馬が穴を開けてしまう楽しみ」とか、「ホントはそんな馬を買ったって来るわけないのに、何となくアリそうな気がする」という雰囲気の醸成とか、そんなものが混ぜこぜになって競馬やレースのシステムそのものや予想や競馬新聞は成り立っている。そこに胴元が出てきてわざわざ「こう買いなさい」「これは買ってはいけません」だなんて、反則であり、余計なお世話でもあり、不要な勘繰りを生む行為でもある。
 JRA-VANですら「このデータを利用すれば回収率は上がりますよ」といった売りかたをすることは無理だろう。

 ただ、そう思わせる=「データを丹念に分析すれば、いまより回収率を10ポイント上げられる」とファンに感じさせることくらいは必要かつ可能であるはず。実際その手の原稿、いろいろ書いてるし。
 いや、実際のところ、そう簡単に回収率なんて上がるもんじゃない。が、「回収率を上げよう」と意識している人じたいが、まだまだ少ない。その部分での「競馬ファンを導いていく」という姿勢が、競馬界全体としてまだまだ足りない。

 競馬新聞やスポーツ紙、あるいはJRA-VANのようなデータサービス、情報サービスなどが、それぞれ独自の個性を売り物にするのは間違いではない。コラムなどの読み物を掲載したり、はたまた「ここを勝って、亡きオーナーへの弔い」といった浪花節的な予想をプッシュするのもアリ。それらが馬券購入の意欲を刺激することだって十分にあるわけで、その点では“150%プロジェクト”になくてはならない要素であるといえる。
 ただ、TVでもラジオでも雑誌でも新聞でもネット上のサービスでも、今後はもう少しシビアに「回収率を上げるためには、どうするか」「こういうことを意識して買えば回収率を上げられる」といった価値観をベースに置きながらファンや読者にアピールしていく、そんな情報提供スタンスが必要ではないだろうか。

 まぁ「ホントに回収率を上げられるなら、他人に教えたりせず自分の馬券に生かす」という意見もあるだろう。
 本稿の最初に述べたように、この“150%プロジェクト”の根底には「競馬とつながりのあるすべての人が幸せになれる、適正な競馬マーケットの実現を目指す」「そのためには、競馬とつながりのある人間としてやれること、やらなければならないことがある」という意識がある。
 自分以外の、より多くの競馬ファンの回収率を上げるような取組み、工夫、姿勢が、実は自分自身の競馬環境も充実させる。という事実を肝に銘じて行動すべきなのだ。

 けれど実は、ファンの回収率を上げると大きな問題も起こりうる。誰かが勝てば=回収率が上がれば、別の誰かが負ける=回収率が下がる、という事実だ。
 いま、コア層の回収率アップを進めるとして、じゃあ「そのぶん負ける人」という貧乏くじは、コア層の中でも「勝つためには、これこれの策が必要」という意識に馴染めない人たちとか、それほどコアではないファン層、ライト層に引いてもらわなくてはならない、ということになる。
 が、儲からないと思ったら、この人たちはすぐに競馬から離れていってしまったり、そもそも馬券を買うだけの余力を無くしてしまったり、といった状況に陥る危険性がある。

 となるとどうやら「離れていく人を減らす」とか「貧乏くじを引く人の絶対量を確保し、マイナスをより多くの人たちで請け負ってもらい、それぞれの痛みを少なくする」みたいな取り組みが必要であるようだ。
 このあたりについても考えなくてはならない。 (つづく)

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