市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第676回 2014.1.27

恒久的な競馬開催のために 2014年版(中)


 さて「2013年の馬券売上げは前年比100.4%を記録したけれど、まだまだ安穏とはしていられないから、いろいろ考えなきゃいけないね」という話の続き。
 とりあえず、馬券はもっと売れればさらにハッピーだし、そのためには新しいファンも増えてほしいし、既存ファンも喜べる競馬環境にだって気を配るべき。生産者やレース関係者や主催者、馬事文化や農林水産業に携わる、つまりはすべての“競馬とつながりのある人”が悦んで、「経済活動および興業としての競馬が恒久的かつ良好に持続できる」水準のマーケットを実現、そして維持することが大切、といったことを述べた。

 じゃあ“健全な水準”や“適正な競馬マーケットの規模”ってどれくらいなのか?
 前回は「現状の規模ではこうした弊害が出ている」といった分析や「このベースを実現できればこれだけのレース数とこれくらいの賞金レベルを保てる、こんなファンサービスが可能になる、競走馬の取引価格がこれこれの水準でキープできる、生産者など競馬関連産業従事者の収入はこうなる、競馬目当てに新聞や雑誌を買う人の数はこれくらいで、馬券以外の競馬関連産業に落とすお金の総量はこれくらいで……」といった将来予測的データを考慮しつつ一定のラインを設定し、その水準値や目標値を“競馬とつながりのあるすべての人”が共通認識として持つべき、とした。

 ただ、これらはすべて競馬業界の内側からの視点である。

 馬券の売上げピークは1997年、競馬の総参加人員ピークは2008年で、その翌年にあたる1998年や2009年は、「インターネットの普及が加速しはじめた」とか「リーマン・ショックが日本も襲った」年だったりする。
 つまり、競馬がどうこうより以前に日本人の生活環境や経済状況が劇的に変化しはじめたタイミング。そこで売上げやファン人口も減少しているわけだ。
 もう一度、何らかの大変化がキッカケとなって大幅プラスに転じる可能性もなくはないが、さすがにそこまでの規模の“何か”を競馬業界内から仕掛けるのは無理だろう。

 また、こういうこともいえる。“競馬とつながりのあるすべての人”が、大変化以後の生活環境や経済状況を読み誤ったがために、売上げやファン人口が減ったのだ。あるいは少なくとも「売上げやファン人口が減ることで『困る』と思うようになった」のだ。
 もう少し乱暴にいえば、本来なら(たぶん)分不相応である4兆円規模マーケットについて「競馬は、それだけの魅力がある市場」だと勘違いし、それをベースにあれやこれややろうとしてきたけれど、実際には約半分のマーケットしか実現できず、やりくりが難しくなっている、ということなのだ。

 考え方としては「変化後=現在の、国民の生活環境や経済状況に合わせたスケールの競馬」というものを目指すのが現実的だろう。
 そもそも消費者が、どんなこと(具体的にはレジャー)に、年間または生涯いくら使っているのか? そうした、競馬産業の外というか、競馬を含むすべての興業マーケット規模も見据えながら“適正な競馬マーケットの規模”を考えなくてはならないはずだ。

 レジャー白書によれば、2012年の余暇市場は64兆7,272億円だったらしい。このうち馬券に投じられたのが2兆4000億円。つまりは3.7%。競馬新聞や「競馬目的で買われるスポーツ紙」、競馬雑誌やグッズ、競馬場内での飲食費などを合算すれば、4%くらいになるかも知れない。
 余暇といったら、スポーツだの映画鑑賞だの旅行だの、かなりのマーケット規模があるはず。「趣味は何ですか?」とか「余暇の過ごしかたは?」という質問に対し、100や200の項目がアっという間にあがるだろう。なのに、そのうち4%近くも競馬が占めている。原則として子どもは参加できないマーケットであるにもかかわらず、だ。

 ちなみに旅行市場はだいたい14兆円規模らしい。さすがに“余暇の王様”だけのことはある。これにはとうてい太刀打ちできないが、考えようによっては、多くの「趣味・余暇の過ごしかた」の中での2兆円・4%というのは、かなりの健闘ともいえる。
 あるいは「2兆円といっても、そのうち約75%は自動的に消費者へ還元されるシステムだから、実質『競馬に消費されたお金』は5000億円」ともいえるのかも知れない。
 手もとにデータがないので数字は上げられないが、たとえば消費者が野球とかサッカーに使ったお金……ライブの試合およびTV中継の観戦費用やグッズ購入費……などと比べて、2兆円または5000億円ってどうなのだろうか?

 旅行には、ひとり平均で年に2〜3回行くというデータがある。が、実際には5回も6回も行く人がいて、アベレージを上げているはず。プロ野球の入場者数は年間2000万人レベル。つまり国民の6人に1人はスタジアムに足を運んでいる計算だが、実際には何十試合も観に行く人がいて、やっぱり数を稼いでいる。500万人クラスのJリーグだって同じことがいえるはずだ。
 競馬も然り。毎週のように参加(馬券を購入)する人もいれば、年に数回のライト層も当然いるだろうし、「たまたま今年は買ったけれど、それが生涯に一度の経験」という人だっている。
 では、競馬におけるコア層/ライト層/新規参入者/離脱者などの割合は、他のレジャーと比べてどうなっているんだろう?

 まさにそうした、競馬産業の外、競馬を含むすべての興業マーケット(もちろんトータルでの日本経済も)を俯瞰したうえで、競馬マーケットと競馬ファンの実態を知り、そこから“適正な競馬マーケットの規模”を考え、それを実現するためのさまざまなプランを立てるべきであるはずだ。
 これらの分析の結果、ひょっとしたら「もはやレジャー産業は飽和状態、これ以上の規模拡大は望めない」という結果が導き出されるかも知れない。さらに「その中で競馬が占める割合は高すぎる」とか「実は2兆円規模が適正」といった結論に至るかも知れない。
 はたまた逆に「日本経済は底を脱し、レジャー市場もまだ伸びる」という予測を立てるアナリストもいるだろう。1996年〜1997年の余暇市場は90兆円規模で、馬券の売上げが4兆円ということは、8.8%。ならば現状の4%でも低いくらいであって、もっと競馬マーケットは拡大(復調)できるはず、60兆円の7%でも4兆円の再現だ、なんて意気込む人だって出てくるかもしれない。

 そりゃあ最盛期に記録した売上げ4兆円規模を実現できれば万々歳だけれど、さすがにそこまで楽観的にはなれない。
 まぁ個人的には、余暇市場は穏やかに回復するものの、エネルギー問題だの少子化だの人口減少だのの問題もあって、せいぜい70兆円規模で安定するのが関の山じゃないかと思う。1989年で66兆円規模だから、それでも多少楽観的な観測だ。
 で、70兆円×現状の4%維持という計算なら、つまりは「競馬人気を維持する」という方策だけでも2兆8000億円レベルまでは行きそうだ。
 が、現状維持では“ちょっと足りない”のだ。
 とはいえ19990年代当時に比べれば「余暇の過ごしかたの種類」も国民の価値観も多様化しているので、その中で7%だの8%以上だのといったシェアを占めるのなんて、恐らくは無理。が、頑張って5%なら、何とかなるのではないか。

 現状の60兆円規模の余暇市場なら、その5%の3億円。70兆円規模にまで回復したのなら、その5%=3兆5000億円。これがひとまず“適正な競馬マーケットの規模”であり、これを共通の意識として僕らが持って、このラインに合わせた競馬開催・生産・馬券購入がおこなわれるような流れを作っていくことが必要ではないか、と思う。
 乱暴にいえば、ファンとしては「とりあえず去年の150%くらいの額は馬券を買おう」とか「景気が良くなったら、いまの1.8倍くらい馬券を買おう」なんていう気概を持つことから始める、みたいな。

 この「150〜180%アップ」は、ひとつの“取っ掛かり”になりそうだ。
 既存のコア層に「いまの150〜180%の馬券を買ってもらう」アイディア、あるいは「その年から競馬に新規参入してくれるファンの数を、いまより150〜180%ぶん増やす」ための策、はたまた「年に1度しか馬券を買わないライト層を150〜180%増」。
 相当に難しい目標値だと思うが、1年2年で実現しようってわけじゃない。景気と余暇市場の回復に合わせて、緩やかに、そのラインを目指せばいい。
 それに「ブームによって入ってきたファンが定着し、ボカスカと馬券を買ってくれるようになるまでの期間として、3年〜5年を要する」という事実もある。だから新規ファン獲得のペースも、それくらいのスパンで考えればいい。

 さあ後は、この「150〜180%アップ」のために、何をすべきかだ。  (つづく)

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