市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第671回 2013.12.2

ジャパンCを中心に考える競馬番組(前)


 先ごろおこなわれたジャパンCでは、ジェンティルドンナが史上初の連覇を達成した。今年未勝利、相手強化、スローでのカカリ癖といったさまざまな不安要素に加え、ムーア騎手が「先頭に出るのがちょっと早かった」と振り返ったように、直線では完全に目標とされる展開。けれど、先行勢を叩き合いの末にねじ伏せ、デニムアンドルビーの猛追もハナ差しのぎ切ったのだから大したものだ。

 私の馬券はといえば「一番強いのは◎ジェンティルドンナで、真っ当なら抜け切る。2着に突っ込んでくるとしたら、世代レベルが高そう&死んだふりができる&東京で末が切れる○デニムアンドルビー」というところまではピッタリ、◎○からの3連単流しだったのだが、トーセンジョーダンなんか眼中になく討ち死に。ああ、馬連でも2500円ついたんだよなぁ。
 さらに「ジェンティルドンナが今年に入って勝っていないこと自体は仕方ない。ただ、昨年見せた“切れ”は失われている。負けるとしたら『スローな流れを向こう正面でハナに立って粘り切る』タイプに直線で追いつけないパターン」と読み、無理目を承知でジョシュアツリーに期待したのだが、好位の後ろをチンタラ走るばかり、結果は17頭立て17着のどん尻。ムルタ君には、せめてカマシに行ってほしかったのだが。
 2400mの持ちタイムが不満でも、2200mでは2分10秒台があるんだし、あのスローな展開だったのだからスピード能力に問題はなかったはず。ただの力負けとも思えず、だとしたら調子かなぁ。

 そのジョシュアツリー、12番人気で単勝オッズは112.4倍。外国勢3頭の中ではもっとも実績は上だったのだが、それでもこの数字だ。シメノンが15番人気で163.8倍、結果は13着で、ドゥーナデンは5着(2年前か去年のデキならもうちょっとやれたはずで、来日のタイミングが惜しまれる)に突っ込んで意地を見せたものの、馬券に絡めなかったのは事実であり、こちらは13番人気の117.3倍。
 戦前から「今年の外国馬はレベルが低い」といわれた通りの評価と結果だったといえるだろう。ファンはよくわかっている。

 ジャパンCに、なかなか大物が、あるいは少なくとも「買いたい」と思わせる馬が来てくれなくなって久しい。昨年はソレミア、一昨年はデインドリームがいたけれど、この10年ほどを俯瞰すると総じて「アウェーで勝ち負けできるほどのトップクラス」はホントに少なくなっていて、外国馬=2ケタ着順は当たり前の状況だ。
 さすがにデインドリーム6着、コンデュイット4着、ウィジャボード3着、アルカセット1着と、それなりの実績があって人気もソコソコ集めていた馬たちはカッコをつけてくれているけれど。
 このあたりについては、主催者の“勧誘能力”を問題視する声もある。昨今ではジャパンCより香港国際競走のほうがメンバーは豪華、海外勢だけでなく日本勢にもあちらをターゲットにする陣営が増えている印象もあり、なるほど“勧誘能力”を云々したくなる気持ちもわからなくはないし、実際、そういう側面もあるだろう。

 高速といわれる日本の特殊な馬場が嫌われている、という意見も根強い。が、そんなもんは昔からわかっていたこと。理由の1つではあっても、すべてではないだろう。ゴドルフィンあたりはそうした馬場特性を見越したうえで日本向きの馬を送り込んできた、という流れもあったわけだし。
 が、最近は「日本向きの馬を送り込む」という策すら途絶えていることを思えば、馬場問題と同様に巷間いわれている通り、日本馬のレベルが上がったこと、他に高額賞金レースが増えたこと、ジャパンCの相対的・絶対的地位がなかなか上がっていないこと、凱旋門賞〜米ブリーダーズC/メルボルンC〜ジャパンC〜香港へと至る日程が過密で体調管理が難しいこと……などが複合的に絡み合い「ジャパンCで勝ち負けするのは厳しい。もっと楽に稼げそうなところ、もっと大きな勲章は、他にもあるもんね」ということになってしまっていると考えられる。
 勧誘能力問題についても、そもそも「他にもあるもんね」と思われているのだから上手くいかない、という面もあるのではないか。

 だいたい、日本のトップホースが出ていない、ってのが、いまのジャパンCのありようを物語っている。今年のメンバーにオルフェーヴルとキズナとエピファネイアが加わっていれば、海外勢の層の薄さなんかほとんど問題にされなかっただろう。むしろ「ワシらのヒーローに恐れをなして来なかったんだな」と、海外勢を嗤うことすらできたはずだ。
 が、それは実現せず。「日本のトップホースが出ていない」という状況を考えた場合、馬場云々とか日本馬のレベルがどうのこうのは関係ないはずで、となるとやはり、高額賞金のレースも名誉も他にあるという事実と、秋競馬の日程が“強豪不在”の主たる要因と考えていいのではないだろうか。

 もはやジャパンCは、華やかさを失い、ミステリアスな“浮かれ”も薄まり、中長距離路線における“ひとつの選択肢”、ただの「いちG1」と化したかのような印象。未知の強豪を見たい。世界トップレベルと日本のスタートのガチンコを見たい。多くの競馬ファンが抱くそうした欲求を満たすレースではなくなったように思える。
 この状況を打開するためには、どうすべきか。
 世界の強豪が来日を躊躇するほど日本馬のレベルが上がったことについては、これはもうどうしようもないというか、ある意味では歓迎すべきこと。となれば残りの要素、馬場と、賞金・地位と、日程と、それらを総合したうえで海外に売り込む勧誘能力とをどうにかしなくてはならない、ということになりそうだ。

 まず馬場だが、果たして、欧州並みに深くて重い芝に(全競馬場とまでいかなくとも、どこか特定のコースだけでも)する必要はあるだろうか。
 そもそも気候などの問題もあって困難というか、「日本には日本に向いた芝があり、その条件下で『日本の芝競馬』がおこなわれている」と、現状を認識すべきだろう。もちろん、その部分を克服して欧州テイストに持って行くことも決して不可能ではないはずだが、そうなると今度は従来型の日本の芝で出世した日本のトップホースに嫌われる可能性が出てくる。その世代その世代のチャンピオンが、すべてオルフェーヴルみたいな万能タイプとは限らないわけだし。
 いっぽうで、仮に欧州テイストの芝が実現した場合、「そこで結果を出し、自信を持って海外遠征」というパターンの馬が出てくる希望はある。このあたりは悩ましい。

 ただ「欧州には欧州に向いた芝があり、その条件下で『欧州の芝競馬』がおこなわれている」ともいえるわけで、グローバルな観点から競馬を考えるのなら、「その地域の環境下でおこなわれるその地域の競馬に、他の地域から挑戦する」ことの意義を大切にするのも、立派な競馬文化だ。
 欧州は欧州の、日本は日本の、北米は北米の競馬をそれぞれ大切にしながら交流する。それが理想像であり、ジャパンCもそこを目指すべきだろう。
 だからといって「ウチはこうですから、それでも良ければいらっしゃれば?」を貫いても、何も変化はない。ある程度の歩み寄りであったり、「これなら日本に行ってもいいかな」と海外勢に思わせる、新たなサムシングを打ち出してもいいはずだ。もちろん、日本の独自性も維持しながら。

 続いて賞金・地位に関して。確かに賞金面で、ジャパンCよりウンと上、あるいは同等クラスのレースが増えたことは事実だろう。けれど実は、それについてはあまり大きな問題ではなくって、賞金よりも「そのレースを勝つことで得られる栄誉」のほうが要素としては大きいというか、「必ずしも賞金とレースの価値はイコールではない」ということを考慮しなければならない。
 ここはもう馬場の改修などよりはるかに難しいテーマだろう。海外勢+日本勢に「どうしても勝ちたいレース」としてジャパンCを意識してもらわなければならないのだから。

 あとは日程だが、これについても日本単独であれこれやっても限度がある。世界の競馬をグローバルに考えつつ、さらには開催場所・距離・他の国内G1との関連性なども含めて再考すべき必要がありそうだ。     (つづく)

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