競馬的『あまちゃん』論と『あまちゃん』的競馬論(2)
さて、『あまちゃん』が終わって1週間強。意外と“あまロス”にならずに済んでいるのは、仕事が忙しくって落ち込んでいるヒマなんてないのと、新・朝ドラの『ごちそうさん』がいかにもな正統派朝ドラで肩ひじ張らずに楽しめること、その『ごちそうさん』でヒロイン・杏の少女時代を演じる豊嶋花ちゃんがブっ跳んでいて笑える(なんか賛否両論らしいけれど、表情はコントかっていうくらい豊かで、セリフの9割は食べ物がらみ、それを「そこまで力まんでも」と思わせる甲高い声で鳴り響かせる様子は絶賛に値する)ことなどが大きいのだろう。
あと『あまちゃん』関係のCDとか本とかも用意してあるので寂しくないし。小泉今日子のベスト盤なんかも買ってしまった。
で、今回のテーマはその小泉今日子。あらためて『あまちゃん』の序盤と終盤を見比べてみると、KYON2の芝居にはブレがなく、終始一貫して「天野春子」として生きているのがスゴイなぁと思わせるわけだが、実はひとつ気になっていた点がある。
この『あまちゃん』世界には小泉今日子がいない、という事実だ。
いや、ひょっとしたら作中で小泉今日子に触れられていないだけなのかも知れない。なにしろ聖子ちゃんはいるしトシちゃんはソックリさんまでいるし、つまりは“現実世界のアイドル”がちゃんと存在するのが『あまちゃん』。
けれども、なのに、これだけ天野春子と小泉今日子が似ている割には誰もそれに言及しないってのはおかしな話だ。『あまちゃん』における大テーマである“アイドル”の姿をある意味で強烈に具現化した存在であるところの小泉今日子が出てこないってのも不思議な話だ。なぁんにも触れずにスルーしちゃうよりも、「春子さんって小泉今日子とそっくり」というセリフがあったり、アキちゃんまたは若かりし頃の春子さんがTV局でKYON2(もちろん演じるのは小泉今日子)とすれ違う、みたいな展開があったりするほうがよっぽど自然ではなかろうか。
いやいや、それをいうなら薬師丸ひろ子だって存在しないことになるわけだけれど、その代わりに鈴鹿ひろ美がいると考えたらどうだ。待てよ、小池徹平もいないのか。とするとWaTでウエンツは誰と組んでるんだ。仮面ライダー・フォーゼも『あまちゃん』世界では放送されてなかったりするのか。アメ女のライバルとして名前があがってこないってことは48グループも存在しないのか……。
ま、当たり前の話だけれど、要はパラレルワールド。現代と80年代をリンクさせたり、東日本大震災を描いたりしてリアリティを醸し出してはいるものの、『あまちゃん』世界は僕らの住む現実世界とは似て非なる時空、TVの中だけの桃源郷。「小泉今日子のいない世界」であっても何の問題もないわけで。
実をいうと「『あまちゃん』世界はパラレルワールドだ。だからひょっとしたら震災も起きないんじゃないか」とまで考えていたんだけれど、さすがにそれは無理があったようで。
で、この「○○がいない世界」を競馬に当てはめてみる。たとえばわかりやすいところでは「サンデーサイレンス(SS)がいない(いなかった)世界」か。
そうするともう僕らの知っている競馬史はまったくもって別物になっていたはず。SSがいなかったら別の系統・種牡馬の子が相対的に増えていただろうし、となると現実には存在しない超スターホースが生まれていた可能性だって出てくるし、個々のレースの出走メンバーもガラリと変わり、流れも変わっていただろうし……。
だから、単純に「あのレースの2着馬が勝ち馬になっていた」とは考えられない。オーナーや生産者や厩舎の勢力図も変わっていた可能性まで思えば、もはや想像などつきようのない世界だ。
競馬史におけるSSの存在・不在の影響は、種牡馬として存命だった頃より現在のほうが大きいといえるだろう。なにしろ昨年1年間のJRA平地競走3321レースのうち、SSの後継種牡馬の産駒が勝ったのは1377レース。4割以上のレースをSS系が持って行っているわけで、あらためてこの系統の、SSという種牡馬の偉大さを思い知る。
ちなみに昨年度の系統別の勝率を見ると、SS系が7.6%、ミスタープロスペクター系が7.2%、ノーザンダンサー系が6.4%、SS以外のヘイルトゥリーズン系が6.3%、ナスルーラの系統が6.0%、これら以外が5.2%となっている。
つまりSS系は率としてはそう高くないわけだが、「SS系が勝ったレース」における2着率を調べると面白い。SS系が8.5%、ミスタープロスペクター系が7.7%、SS以外のヘイルトゥリーズン系が7.2%、ナスルーラの系統が6.9%で、ノーザンダンサー系は6.1%、これら以外が5.0%。
数字的には大差ないように見えるが、細かくいえば「SS系が勝ったレースは2着もSS系の率が高い」「要はSS系はコンスタントに上位に来るんじゃないか」「SS系が勝ったレースではノーザンダンサー系が上位に来る確率が下がる」などといったことが考えられる。
じゃあノーザンダンサー系が勝ったレースはどうかというと、2着率はSS系とSS以外のヘイルトゥリーズン系が8.2%、ミスタープロスペクター系が7.2%、ナスルーラの系統が6.2%、ノーザンダンサー系が5.7%で、これら以外のマイナー系統は7.1%にまで跳ね上がる。
といったデータからは、たとえば「ノーザンダンサー系が勝ってもやっぱりSS系は上位に来る」「いやマイナーな系統の成績が伸びているし、現実としてSS系が負けているのだから『SS系が勝つようなレース』とはまったくの別物(距離やコースや流れ)じゃないか」「でも少なくともノーザンダンサー系の1・2フィニッシュは少ない」などといった仮説や傾向が浮かび上がってくる。
ほかにも「○○がいなかったら」とか「○○が××だったら」といった“if”の発想から、いろいろとデータをコネクリ回すことは可能であるはず。そこから見えてくる事実や傾向、仮説などが、競走馬の力量分析に役立つことも多々あるのではないだろうか。
血統・系統のようなマクロな分析だけでなく、この考えは、目の前のレースや、ある競走馬が次に出走するレースなどにも応用できるだろう。
いま終わったレースでは1番人気が逃げ切ったが、もし別の馬が競りかけていたら。あるいは「ハナを切れれば負けなかったのに」と悔やむ鞍上は、次のレースでどのような策を取ってくるだろうか。枠の内外が逆だったらどんなレースになっていただろう。
そうした思いつきからシミュレーションを繰り返すことで、予想精度を上げるような方法論だってあるのではないだろうか。
いまちょっと思いついた集計。2011年〜2012年の平地のレースで逃げて、次のレースで1番人気になった馬は730頭いる。たぶん「今回はマイペースで逃げられそう」とか「今回も逃げ切ってくれるはず」とか「そもそも競馬は前へ行く馬が有利」といった意識によって作られた「1番人気の逃げ馬」だろう。ただし勝率は33.4%で、1番人気としては標準的だ。
ひょっとすると穴党の中には「逃げられないんじゃないか」とか「今回も逃げつぶれるんじゃないか」と期待して、こうした馬を嫌う人もいるだろう。
実は730頭のうち、前回に引き続いて逃げたのは291頭と、意外と少ない。つまり「この馬がもし逃げなかったら」という“if”が“if”ではなく、現実として起こっているのである。
当然、「もしこの馬が逃げられなかったら、どういう馬が勝つか」と考えつつ「1番人気の逃げ馬」が逃げなかった場合の傾向などを調べたくなるところだ。
また詳しくデータを見ていくと、前回と同じコースだと今回も逃げる確率が高いようだったり、昇級戦だと思い切りよく行こうという意識が働くのか逃げて穴を開けることも多かったり、距離延長だと楽に逃げられるように思えるが実は距離短縮のほうが成績は上がっていたり、前走と同じ騎手が乗るとさすがに逃げる率も高いようだがむしろ乗り替わりがあったほうが勝率的にはよかったり……。
こうして出てきた傾向や事実を発端として、競馬の真理へ迫ることだってできるかも知れない。1つの思いつきや「もしも」から、さまざまにデータをイジクリまわし、また別の思いつきへと至る。その繰り返しが予想精度を高めていくのだと思う。
次回も引き続いて『あまちゃん』キッカケの話で、「3つのファクターの相互作用」と展開予想、「トータルパッケージ」とブレンド予想、「死」と自己分析、そして「パート2」と番組体系および血統についてを考えていこう。 (つづく)